第0話 「ダイエット沼の底から ~ブラコとの日々~」

──誰の心の中にも、2つの「脳の声」がある。

ブラコ(ブラック脳)

  • サボりたい。
  • 欲望に負けたい。
  • 今だけ楽したい。
  • 面倒な現実は見たくない。
  • 自己破壊すら「まあいっか」で流してしまう。

──短期快楽ファーストが大好きな、 ダイエットの邪魔をする小悪魔みたいな存在。


オコメル(ホワイト脳)

  • 未来をちゃんと考える。
  • 行動の意味を自問する。
  • 自分をだまさずに扱う。
  • でも、完璧は求めすぎない。
  • 本当に「生きる」ために動く。

──未来志向で、自己管理が得意な、 ダイエットを助けてくれるふわふわ妖精。


あなたの中にも、きっと両方いる。
問題は、どちらの声に耳を傾けるか。


100%完璧でなくてもいい。
オコメル(ホワイト脳)が、ブラコ(ブラック脳)よりも
ほんの少しでも優勢──

それだけで、人生は変わる。


未来ひかる、38歳。
高校時代はバスケット部で、
走って飛んで汗をかいて、毎日が夢中だった。

「県大会で優勝する!」
そんな目標をみんなで追いかける時間が、とにかく楽しかった。

努力することが好きだった。
誰かと一緒にがんばるのが、うれしかった。


──それから20年後…

だけど、今は少し違う。
東京で一人暮らし。
学生のころから好きだったイラストを仕事にしてフリーで受けていた。

イラストを描くのは、今でも大好きだ。
でも、生活は楽じゃない。

今月も、いろんなダイエット法を試してみた。
そのたびに──


短期快楽ファーストが大好きな、 ダイエットの邪魔をする小悪魔、ブラコのささやきが、そっと心に忍び寄る。


糖質制限にチャレンジ!

「糖質なんか抜いたら、頭回らなくなるよ?
ちょっとだけ、ちょっとだけチョコレート食べちゃお♡」

→ ブラコ先生の甘い囁きに負けて、イライラして爆食い。


週3の運動にチャレンジ!

「今日は疲れてるでしょ? 特別に休んでもいいよ〜。
明日まとめてやればOK!」

→ そんな声に引きずられて、いつも三日坊主で終了。


酵素ドリンクにチャレンジ!

「お腹すいたなら、食べちゃえばいいよ。
そんなのガマンする意味ないじゃん♡」

→ 気づけば、空腹に耐えきれずギブアップ。


チャレンジするたびに、ひかるはスマホのダイエットアプリを開き、
減ったり増えたりする体重グラフを見つめながら、ため息をつく。

「頑張ってるはずなのに、なんで……?」


今日は金曜日。
仕事帰り、コンビニでサンドイッチとサラダを手に取る。
「ちゃんとした夕飯にしなきゃ」──そう思ったはずだった。

でも、気づけばポテトチップスとカップスイーツ、
今日の分と、予備の分もカゴに入っていた。

「今日くらい、食べすぎてもいいよね。」
ブラコが、ニコニコしながら肩の上でささやく。

「頑張った分も自分に、ごほうびあげなきゃ♡」


コートも脱がずにソファで夕食。
サンドイッチを片手に、ポテトチップスを開ける。
スイーツは明日のデザートにしよう──そう思ったはずだった。

気づけば、カップスイーツはすでに空。
そして今、ポテトチップスを食べ終え、また、食べすぎちゃったと、ため息をつく。

「……明日から、頑張ろう。」
その言葉だけを、何度も、何度もくり返しながら。
そんな、どこにも行けない夜。
また同じソファの上で。


ブラコは、にっこり笑ってささやいた。
「そうそう、明日からでいいよ。
ほら、食べたらすぐ寝ちゃおう?」


けれど、その夜。
ひかるの心に、小さな違和感が生まれた。

──本当に、このままでいいのかな?

そのとき。どこからともなく、ふしぎな音が聞こえた。
──シャララ〜ン♪

耳をすませても、何も見えない。
でも、心の奥で、何かが小さく揺れた気がした。


それは、ごく小さな、小さな芽吹きだった。
そして、それは、すべての始まりだった。


「何も変われなかったひかるに、
小さな奇跡が訪れます──。

もしかすると、あなたの未来にも──。」